奇跡のような偶然。

おじいちゃんから鍵をもらった日は本当に忘れません。
鍵ってそもそも大事なものだけど、あれは別格です。

その譲渡から遡る事、約1ヶ月。
おじいちゃんが譲渡に向けて準備してくれると話が決まった11月半ば、
ノブさんは唐突にやってきました。
全くの見ず知らずですが、私達tombolo家族がノブさんのお兄さん家族と仲良しで、
当時東京在住のノブさんは年に一度函館に来る際、主人のパン屋tomboloに立ち寄ってくれていました。

たったそれだけの縁ですが、移住を決意して何の伝もなく函館の飛行機に飛び乗った(本当にそんな感じ)
ノブさんは、なぜかその足で真っ先にtomboloに来たのです。
定休日ではあったのですが、主人が店にいたので詳しく事情を聞くと
年明けには函館に移住を考えていると。
函館でcafeを経営したいと。

とにかく移住の決意は固いみたいなので、箱バルメンバー蒲生君に
連絡をとって部屋を探そうということになりバタバタバタ。
1泊2日の強行ツアーの中、移住先の部屋を決め、
そしてAn deux HOUSEで是非cafeをやりましょうと前向きに話が進んだ。

それは、ノブさんに会う数日前、夜な夜な考えていた。
An deux HOUSEをこれからどう繋いでいくか。
西部地区が魅力的な場所になるためには絶対cafeが必要だと前々から思っていた。
An deux HOUSEは2階建てだから、1階にcafeがあるとすごくいい。
2階に私のデザイン事務所やテナントがいくつか入っているのが理想。
と妄想を広げて、さてお金の計算を始めると・・・・、
cafeはどんなメニューで誰がするのか?固定費はどれぐらいかかるのか?
自分でやる算段で考えると、もう一人自分がいなければ不可能と落胆した・・・。
テナントとして1階をcafeでやってくれる人を探すしかないと・・・。

そんな矢先のノブさん。
東京でcafeの店長を勤め、レストラン経験もありソムリエの資格も持っている。
しかも、ノブさんは「cafe」がやりたいと強く言う。
パリのcafe文化のようないろんな人が色んな形で場所として利用して
時にはその場から交流も生まれる。めちゃくちゃ気取ってるわけではないけど、
美味しいしハイセンス。生活に根付いていくようなcafe。そこの解釈が一致した!!

そして、当時はおじいちゃんがまだ住んでいたので一緒に内覧させてもらった。
おじいちゃんの人柄や趣味の真空管アンプなどの音響、それから築80年のたたずまいに共感してくれた。

それから、cafeの経営は任せたいけど、おじいちゃんちを引き継ぐ形を名前に残したくて、
店名をもう考えてしまっていた。
transistor_logo
“transistor”は”transfer=伝達”と”resistor=抵抗”の造語。
このカフェを介して、人と人が一旦は留まって交流して、また気持ちを新たに発信していく。
それについても、賛同してくれた。
なので、是非ともやって欲しい。
「一緒にがんばりましょう!」 と連絡先を交換してノブさんはまた東京に帰って行きました。

それから間もなく12月になり、あっという間に年が明けてしまう前に、
An deux HOUSEの建物調査を箱バルメンバーの富樫さんにやってもらうことになり、
ご縁があって知り合ったフランス・パリから帰国後のミズキさんと調査に入った。

まず現状の図面を起こしてもらう。 木造の骨組みに外壁はモルタル・内壁は主に漆喰。
古い家は雪国の根雪に基礎をやられていることが多く、An deux HOUSEもご他聞に漏れず、基礎が怪しい・・・。
屋根もかなり傷んでいて、雨漏りもしている様子。
漆喰の壁・天井は屋根・基礎の影響を受けて大きなクラックが入っている。
さらにおじいちゃんはほぼオフグリッド生活(ガス・電気・水道なし生活)をしていたので、
インフラを引っ張るところから始めないといけない。
水道・ガスに関しては建物が借地権のこともあり、権利問題でややこしくなるかもしれない・・・。
とにかく問題は山積み。
これを何とか、出来る限り現状を活かして、プラスにもって行きたい。
それにはかなりのお金が必要・・・。
でも若造にはそんなお金はないので、アイデアと体力で乗り越えていきたい!
とはいえ、銀行に相談することを怠らないことは必須条件。
そのためには見積もりがないと借りられない。 見積もりは図面がないと起こせない。
ということで、やはりcafeの図面も書いてもらうことに・・・。
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知らないことだらけで、時間ばかり掛かってしまう打ち合わせが続く・・・。
根気強く付き合ってくれた富樫さんとミズキさん、本当にありがとう・・・。

そんな1月半ば、ノブさんが函館についに移住。
飛行機到着後、即打ち合わせ・・・。
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打ち合わせを重ねる中で少し形が見えてきて、見積もりも起きてきたので私は銀行へ。

An deux HOUSE/ Transistor cafeのオープンは、春のバル街@4月22日(金)が目標。
そこに向けて、一つ目の試練。
「賃貸借契約書」
不動産に関してはもちろん、箱バルメンバーの蒲生君担当。
やっぱり素人には契約書の作成は難しく、内容を協議して作成し、
蒲生君立会いの下、1月末にノブさんと契約を交わしました。

そして、ノブさんは、少しでも工期と費用を少なくするために、床・天井・壁の解体を始めた。

私とノブさんは建築に関しては完全に素人なので、箱バルメンバー富樫さんに建物の状況を見てもらった。
古い家に良くある束石・大引が少ないこと・土台が落ちているところがある、
などからジャッキアップして水平を直さないといけないこと。
昔シロアリに梁を食われてしまっているので補強をしないといけないこと。
雨漏りが激しいので屋根を葺き替えなければならないこと。
2階補修工事はどこまでやるか、どうしたいかでかなり変わってくる。
とにかく1階工事をすすめたいけど、富樫さんは他の案件が同時に動いており、
私がお願いした修繕工事とカフェ部分の工事の両方を4月までに終わらせることは難しい・・・。
バル街にカフェオープンを間に合わせるのは無理なのかと悩んでいた矢先、
まさかの救世主タカくん。
タカくんは東京でリノベーション会社に長年勤め、今年の2月に函館に戻って独立したばかりだった。
蒲生君の友人でもある彼に、一緒にcafeを作って貰えないか相談してみた。
状況は厳しいながらも、cafeの内装をやってもらえることになった!

このプロジェクトもみるみるメンバーが増えて、
富樫さん・蒲生君・淳・ノブさん・タカ君・私を含め計6名。
(ミズキさんはプロジェクト立上げ時のサポートメンバー)

そして第二の試練。
「cafeの図面」
一番良いcafeのプランってなに?について、タカ君とノブさんは打ち合わせを重ねた。

だけど、難しいのは築80年の現状を活かしながら、新しい形に変えること。
私はオーナーとして、建物の何を大事にしたいのか?
ノブさんはcafeオーナーとして、何を表現したいのか?
やはり一筋縄にはいかず、メンバーも交えて何度も協議しながらやっとcafeのプランが出来上がった。
そして、インフラを整える為の私の融資がようやく下りた。
オーナーとしてまずインフラ設備に必要な工事を進める。
新たに水道やガスを引き込み、ジャッキアップして腐った土台を取り替えたり、
柱を入れ替えたり、梁を入れたり、屋根を葺き替えたり・・・。

ノブさんの方もカフェを作るためのお金の準備ができたころには工事着工リミットギリギリだった。

それから第三の試練。
「漆喰補修工事」
何とか、1階工事の目処が立ってきたので、ようやく2階を含め漆喰の補修工事について富樫さんと考える・・・。
「いっそアート作品のようにコラージュしようか!」
と富樫さんがおもむろに言い出し、協力して貰いたい作家さんに声をかけるも、納期が短すぎる・・・・。
それでは、お互いにきっといい結果が出せないし、そもそも補修になるのかも疑問・・・。
予算と納期の兼ね合いもあり、今回は共用部分の落下の可能性の高い部分の補修を
腕のある大工さんとペンキ屋さんにお願いして、クラックを覆ってもらうことにした。
ひび割れなんか無かったかのように綺麗に補修されていて、さすがの技術に感動!!
まだ手のつけれていない部屋たちも何とか早く補修をして、沢山の人に見てもらいたい・・・。
ちょっと今の私には、これが限界・・・。
その現場をバル街の日は是非内覧しに来て下さい!お待ちしております!!

ようやく最後の試練。
「保健所許可」
バル街に参加するということは、店としての機能を果していないといけない。
それは、“調理が出来る”ということ。
すると、国の認める証書が必要になってくる。
調理場が完成しなかった場合の保険として、短期営業許可でのプランも考えていたけど、 やっぱりバル街ではカフェのプレオープンくらいは間に合わせたい。

となると水道・ガス・電気も通ってないといけない。
この、一見「普通」のことは築80年の建物の場合簡単にはいかなかった。
だけど諦めるわけにはいかない。タカくんとノブさんは毎日朝から晩まで現場に入り、
タカ君の友人も仕事の後手伝いに来てくれたり、状況を聞きつけたご近所さんや、沢山のボランティアの方達にも来て頂いて、どんどん工事は進んでいった。

そして、なんとか保健所の許可がおりた。

感謝の気持ちとともに、箱と人、人と街との繋がりを実感でき、その嬉しさもこみ上げてきた。
箱バルメンバーにボランティアが加わり、みんなで大掃除!

ホコリを被っていた床も磨くとツヤツヤな表情が現れ建物が蘇ってきたのを実感。
もう一息、バル街にみんなにAn deux HOUSEとトランジスタカフェを披露できるよう頑張ります!

箱バル不動産 苧坂香生里