函館西部地区に大三坂ビルヂングと共に誕生した、小さなまちの宿

1.箱バル不動産の結成
2017年12月1日、函館のレトロな街並みの残る旧市街西部地区に、「大三坂ビルヂングとSMALL TOWN HOSTEL(以下STH)」がオープンした。大三坂ビルヂングは大正10年に旧仁壽生命函館支店と付属土蔵として建てられた伝統的建造物部分を小さな複合商業施設で、STHはその裏に併設された古民家をリノベした宿で、このまちの住人で結成された箱バル不動産が中心となって進められた。

箱バル不動産は、2015年7月の『函館移住計画』を機に、空き家を活用し、小商いを育み、暮らしを豊かにする会社として『建築家の富樫雅行とパン屋の苧坂淳・香生里夫婦と不動産屋の蒲生寛之』で結成された。函館移住計画では、西部地区の空き家を借り受けボランティアと共に関東から来た7名に移住体験をしてもらい、空き家ツアーや移住者との交流会など行った。

2.出会いと再生までの道のり
そんな活動を知った前所有者の娘さんが、同じ小学校に子供が通う苧坂を通じて箱バル不動産に活用を前提にと相談を受けた。箱バル不動産代表を務める蒲生と富樫と苧坂の三人でお話を聞きに行ったのが2015年12月のこと。

この建物は大三坂の中腹にあり建物の角を象徴的に丸くしメダリオンなどの装飾が特徴的で、土蔵と対をなす佇まいは近くを通る人や、電車道路を行き交う人からも象徴的に見えるので、誰しもが気になる建物であった。開かずのシャッターを開けなかに入ると、元生命保険会社という風格のある素晴らしい空間で、天井いっぱいまでの縦長窓が連続し、鋼板の打ち出し天井や当時の金庫などもそのままに残されていた。一方では床や天井が抜け落ち一部空が見えるほどの腐食に心が痛んだ。この場所で、この建物が未来に向けてどう活用されるのが良いかを考え、開港当時坂下に「大三」という屋号の郷宿があったことや、日本の道百選でもありお寺や教会など世界の文化が交わる事から、旅で訪れた人と地域の人が交流できる場所になればと今の形を提案し、蒲生商事でこの建物を引き継ぎ、2016年7月に建物は函館市で63番目の伝統的建築物に指定された。
建物も大きく、直すにしても活用してくれる仲間を探すにしても困難が予想された。そこで箱バル不動産が事業全体のプロデュースを行い、プロモーションなども引き受けた。

直後の2016年8月末の台風では、それまでの表面が崩れていた、事務所棟のモルタルや土蔵の土壁が崩れ落ち、消防や警察も出動する騒ぎに。内部にも大量の荷物が残り、その処分などにも時間が掛かり、同年10月末にようやく建物の引き渡しが完了した。北海道の長い冬に備え、ひとまず外壁がそれ以上に崩れぬようにシートで覆い、空が見えていた玄関の屋根だけ先に葺き替え応急処置の工事を終えた。

3.地域や共感者を生む活動
春からの本格的な工事を前に、2017年の1月末に市民に工事前の状態を見てもらうためのオープンハウスを行い、多くの励ましの声をいただいた。正面の伝統的建造物は国の許可申請の関係で5月まで着工ができないので、先に古民家から宿へとリノベーションする工事が2月より始まった。4月末の本格工事直前、地域で暮らす主婦たちが主催し、『SMALL TOWN MARKET』と題して、親子向けのマルシェイベントを開催し、少子高齢化で人もまばらな地区に600人もの来場があった。そして、本格的な工事が山健中川組さんの手で始まったが、建物の状態は想像以上に悪く土台だけではなく柱も梁も腐ってなくなっており難工事となった。

そして、テナント募集もスタートし、地域の何気ない日常を映したプロモーションムービーも公開した。また、冬から先行していた宿の工事は、下地まで大工さんが工事を終え、道南スギの床を張ったりホタテ貝の漆喰壁を塗ったり、自分たちでできる部分はなるべく自分達の手の痕跡を残しながら、温もりのある形にしたかったのでDIYで進めた。

また、地域の人にも、古い建物や街に少しでも関わってもらいたかったので、DIYサポーターとして募集し、延べ100人が参加してくれた。7月には、さらに多くの人に当事者として関わってもらうために、クラウドファンディングにも挑戦。目標を大きく上回り、60日で234人に411万円のご支援を頂きました。

4.志を共にする仲間が集う
STHにはファイヤピットの大石さんが函館の古いレンガ工場で使われていたレンガを手積みで作った薪ストーブがあり、11月25日火入れ式を行った。この日は幕末の函館で試作された日本最初の薪ストーブに火が入れられた日。復元したストーブが高田屋嘉平資料館にあり住民有志の間で毎年火入れ式が行われてきた。宿のコンセプトが「暮らしを見つける宿」とあって、函館の冬の暮らしを支えてきた火を分けてもらい灯した。多くのご支援もいただき、箱バル不動産の想いに共感した仲間が集まりテナントも共にオープンを迎えた。

元生命保険会社だった、メインの場所には『She told me』というアメリカ料理のお店が当時の内装を上手に活かし入居。土蔵にはキャンドルの製作販売をする『710candle』。2階には、シェアオフィスの『函館大三坂オフィス』。3点とも、函館や近郊の出身者でUターンでの開業となった。

5.まちの流れが変わり始める
STHは、まちを一つの宿と見立て地域の日常を味わっていただく『まちやど』として、函館ならではの暮らしを紹介している。定員13名の小さな宿なので地域の人も親戚が集まる際などで貸切でも利用する。

2016年に箱バル不動産と地域の店舗で共同で作った『箱マップ』には、僕らの日常でオススメの店を集めたMAPでこちらも街案内に一役買っている。また、宿では宿泊以外の人も気軽に立ち寄れるように、『親子英語カフェ』『おみそでNight』『小商いトークライブ』『BBQ×DIY』『日々のHourマーケット』など定期的に開いている。大三坂に新たな拠点が生まれ、比較的若い層の流れが街に戻ってきている。2015年から毎年夏に続けてきた『函館移住計画』も、イベントとしては終了し、365日STHで移住相談も受けるようになった。この大三坂をキッカケに、空き家で小商いをする仲間が増え、私たちの暮らす西部地区の日常が少しでも豊かに暮らせるよう今後も日々活動を続けて行きたい。